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服薬継続中でウイルス検出限界未満ならば、パートナーにHIVを感染させるリスクは非常に低い(PARTNER研究)

2017.01.20

へテロセクシュアルカップルでも、男性とセックスする男性(以下MSM)カップルでも、抗HIV薬を内服しウイルス検出限界未満が続いているHIV陽性者からは、HIV陰性のセックスパートナーへHIVを感染させる可能性は非常に低く、ほぼゼロに近い、との最新研究結果が、2016年7月に南アフリカ・ダーバンで開かれた国際エイズ会議で発表されました。

この研究は2010年の9月から2014年の5月までの間に、ヨーロッパ14か国75カ所の医療機関が行った共同研究で、PARTNER研究と名付けられたものです。普段コンドームを使わないセックスをしてる1166組のセロディスコーダント・カップル(一方がHIVに感染していてもう一方が感染していない人のカップル)のうち、HIVに感染しているほうの人が抗HIV薬を内服してウイルス量が継続的に検出限界未満(HIV-RNA<200コピー/mL)を維持出来ている888カップルを調べたところ、カップル内でHIVが感染したケースは一例もありませんでした。

この研究には、男性がHIV陽性で女性がHIV陰性のヘテロセクシュアルカップルがおよそ3割、女性がHIV陽性で男性がHIV陰性のヘテロセクシュアルカップルが3割、残りの4割がMSMのカップルが参加しました。中央値で1.3年の観察期間中にのべ約58,000回のコンドームなしのセックスがカップル内で行われました。その結果、「パートナー以外」の相手とのセックスでHIVに感染したケースが11例(MSMカップル10例、ヘテロセクシュアルカップル1例)あったものの、遺伝子系統樹解析という方法でHIVの遺伝子配列を詳しく調べた結果、いずれもカップル内のパートナーからの感染ウイルスではないことが証明され、カップル内でのHIV感染例はゼロであった、と結論づけられました。

実際の感染は一例もなかったものの、しかし感染のリスクがゼロ、すなわちリスクが全くない、というわけではないことに注意しなくてはなりません。今回この研究に参加したカップルの人数が少なかったり観察された期間が短かったりしたためにたまたま誰も感染しなかった、すなわちもっと多くのカップルを長期間にわたって観察すれば、もしかしたら感染する人が出る可能性もあり得ます。そのような懸念に答えるため、この研究では統計学的な推定値として「95%信頼区間」という指標を用いて、各グループおよび各性行為別の感染リスクの「上限値」を計算しています。これは統計学的に95%の確率でリスクの誤差がこの値未満に収まるという値を推計するものです。それによると、コンドームなしのセックスを行った場合の感染リスクの上限値は、ヘテロセクシュアルとMSMを合わせた調査参加者全体では0.3/100カップル年(100カップルを一年間追跡調査すると最大0.3カップルで感染が起こる可能性があるという意味)でした。セクシュアリティ別では、ヘテロセクシュアル女性では0.97/100カップル年、ヘテロセクシュアル男性では0.88/100カップル年、MSMでは0.84/100カップル年でした。さらにMSMの感染率を行為別に詳しく見ると、挿入側の(タチの)アナルセックスをする人では1.00/100カップル年、挿入される側(ウケの)アナルセックスをする人で直腸内での射精(中出し)なしの人は1.68/100カップル年、射精(中出し)ありの人では2.70/100カップル年でした。

この研究からわかったこととは、薬を内服してウイルス検出限界未満が維持できていれば、コンドームなしのセックスをしたとしても、HIV陽性者から陰性パートナーへHIVが伝播する可能性は非常に低い、ということでした。ではコンドームは今後一切不要か?というと、やはりそのようなことはなく、少ないながらもリスクは全くゼロというわけではないですし、HIV以外のほかの性感染症を予防するためにもできる限りコンドームを使用する必要は今後もあると思われます。しかしながら、「パートナーへ感染させる/パートナーから感染する不安や恐怖が付きまとい安心してお互いのセックスに満足できない」「子供が欲しいが、陰性パートナーへ感染させてしまうのではないかと心配で諦めざるを得ない」といったような場合、薬を飲んでウイルス検出限界未満が持続していれば感染のリスクは非常に低いということが分かっていれば、そのような恐怖や不安が減り、パートナーとの信頼関係や親密さが増し、より健康的な性生活を送れるようになるのではないでしょうか。

なおこの研究に関しては、詳細を記した研究論文が2016年7月12日号のJAMA(米国医師会誌)に掲載されています 。またMSMの調査に関しては今後さらに参加者を増やし、PARTNER2という名前で2019年まで研究が継続延長されることになっています。

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