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北米ではさらに長生きが可能に!

2016.07.08

news011996年以降、HIVが体内で増えるのを抑える治療法(ART)が開発され、HIV/エイズの治療は大きく進歩しました。

2013年に発表された研究では、アメリカ合衆国とカナダにおいて治療を受けている20歳のHIV陽性者があと何年生きられるか(平均余命)が推計されました。それによると、2000-2年では36.1年(つまり20歳+36.1年=56.1歳まで平均して生きる)でしたが、2006-7年では51.4年(71.4歳)と推計されました。すなわちここ数年の間にHIV陽性者の平均余命は15年以上長くなり、一般人口の平均余命に近づきつつあることを意味しています。

さらにこの研究では、幾つかのグループごとに平均余命の変化を分析しています。例えば、血液中のCD4の数値が350以上でARTを始めたほうが、350を切ってから始めた人と比べ約20年平均余命が長い(68.6年 対 46.9年)と推計しています。このことからもHIV感染症においては早期発見・早期治療開始が大変重要であることが分かると思います。

一方注射器を用いた薬物使用(IDU)をしたことのあるHIV陽性者の平均余命は、2000-2年では29.5年(49.5歳)でしたが、2006-7年でも28.8年(48.8歳)とこの間ほとんど変わっていません。これをMSMの平均余命(69.3年)と比べると、IDU歴ありの場合は平均余命が約40年短いということになります。その理由として、エイズ指標疾患以外の併存疾患による死亡、服薬がきちんとできること(アドヒアランス)の課題や、C型肝炎ウィルスへの共感染、定住住居の不安定性、社会経済的状況、など様々な要因の存在がこの研究論文の中ではあげられています。このことから、近年のHIV/エイズ治療の進歩の果実が薬物を使用する人々には届いていないのではないか、ということが危惧され、薬物を使用する人々にはさらなる支援が必要なことが考えられます。

表 北米における20歳HIV陽性者の平均余命の推移(2000〜2007年)
  2000〜2002年 2003〜2005年 2006〜2007年
全体 36.1年 45.2年 51.4年
性別 男性 35.9年 44.3年 53.4年
女性 36.6年 48.4年 47.3年
感染リスク 薬物静注(IDU) 29.5年 31.0年 28.1年
MSM 53.3年 57.4年 69.3年
その他 43.5年 52.4年 56.1年
治療開始時のCD4数 350未満 31.4年 40.8年 46.9年
350以上 48.8年 58.4年 68.6年